Ricochet

音楽ものレビュー、雑談用のブログです。2019/2/24開始。

タンジェリン・ドリーム復活と新作Quantum Gate

タンジェリン・ドリーム(以下、TD)の総帥、エドガー・フローゼ他界から早3年すぎ。フローゼ御大のいなくなったTDは、もはや新しい動きはできないだろう、とあきらめていたが・・・TDが残されたメンバーで活動し、新作もリリースしていたことは、まこと不勉強ながら、つい最近まで知らなかった。現在のメンバーは、Thorsten Quaeschning、Ulrich Schnauss、そして日本人のバイオリン奏者、山根星子さんの3人。今回の新作「QUANTUM GATE」は、フローゼ御大存命中から構想され、御大の指示に基づいて制作が行われたらしい。

実際どんなものだろう、ということで音を聴いてみると、フローゼのスピリットを充分に引き継いでいるサウンドだなと思った。フローゼが存命でこのアルバムが出ていたとしても、全くおかしくない出来となっている。全体的には、80年代前半の、TANGRAM~LOGOSあたりの印象に近い。70年代前半のような既成概念を打ち破るサウンドや、21世紀の傑作「長崎・夏」のような強烈な印象は受けないが、充分に「音楽的」でありつつ、あまたのイージーリスニングヒーリング系の多くの音とは明らかに一線を画している。ゆったりと進行しながらも、徐々に高揚感が増してくるのがTD。そういえばあの懐かしい、フェードラのシーケンスもちょっと引用されている。

山根さんのサイトやツイッターなどで、TDの最新の活動ぶりもかなり把握できるようになった。最近のセットリストを見てみると、PHADRA、RICOCHET、LOGOS、WHITE EAGLEなども演奏されている模様。フローゼの遺志を受け継いで今後も活躍して戴きたいし、来日公演が実現してくれるといいなと思う。

 

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キャメル来日2018 ムーンマッドネス完全再現

5/17日川崎クラブチッタの来日公演に行ってきました。

開演前に、本日の公演は約3時間のプログラムになるとアナウンスがありました。えっ3時間も?Moonmadness完全再現と休憩を入れても1時間くらいだし、さらに2時間もやって演る方も観る方も疲れないかな?と正直思ってしまったのですが、あにはからんや。終わってみれば時間の長さを全く感じさせない、充実の内容。完全再現も期待通りの良さでしたが、後半が期待以上に楽しめたことが、嬉しい予想外でした。

アンディも元気そうで一安心。「クラブチッタの30周年おめでとう。実は・・・僕も誕生日なんだけどね。(場内拍手喝采)」といった意味のことを遠慮がちにMCしていて、ちょっと可愛かったです

 

ピート・ジョーンズの堂々と安定し、なおかつ繊細な心配りを持ったキーボードプレイは、彼がバンド史に名を刻むキャメルマンであることを確信させました。また、彼のヴォーカルは声質がキャメルに向いています。そして、サックスまで吹いていた!さらには、サックスのプレイ合間にキーボードのバッキングまで(これで目が見えないとは信じられない)。こうなったらピートに、メル・コリンズのパートを演奏して貰えないかな、と思ったのですが、そうなるとキーボードのパートが欠けちゃうか。

ピートの「ツギハ、シンキョクデス!」のMCではじまった新曲もなかなかでした。まあいわゆる、プログレプログレした曲ではないですが、しっかりした旋律の組み立てと、キャメルらしい叙情性を感じられました。もしかして、ピートのペンによるもの?ニューアルバムの制作にも取り組んで戴きたいし、今後の楽しみが増えました。

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ヘルベルト・ブロムシュテット ベートーヴェン・チクルス完結の交響曲7、8番

オーチャード定期・ベートーヴェン8番&7番、行ってきました。数日前のサントリーホール公演での口コミは事前に見ないように注意して、と(笑)。コンマスは篠崎マロさん。

まずは8番、個人的にも大好きな曲。そして、この作品が7番と9番にはさまれた、こじんまりとした小品、というような意見が昔から全く気に入らない。7番は、リズムの神化といわれたりするが、8番も7番以上にリズムのエッセンスを凝縮した、エキサイティングな曲だと思っているけど、実際にはわりとこじんまりとしてしまう演奏もよくある。その点、巨匠の8番は、瑞々しい弾力性に富んでいて、弦の細かな刻みにも躍動感が感じられる。べートーヴェンの要求するテンポと、演奏のクリアさとの両立はなかなか難しいみたいで、この辺りは結構論議の対象になるみたい。テンポをゆるめると、こじんまりとしやすくなるし、快速(要求されるテンポ)になると演奏が雑になるリスクがある。4番の時も思ったけれど、巨匠が振ったゲヴァントハウス盤も今回のN響も、そのあたりのバランスがかなり配慮されていると思った。

7番は腰のしっかりとしたスケールの大きな演奏。指揮台での動きはかなりシンプルだし、これ見よがしな誇張もないけれど(歌心はある)自然にクライマックスを生み出していく。ゲヴァントハウス盤よりも情熱的に聴こえた。フィナーレも奔放に鳴って終わり、満足しました。

これで2015年からの長きに渡った、ベートーヴェンチクルスも終わりました。感慨深いものがありますが・・・個人的にはバンベルクとの田園を逃したのが悔やまれます。秋にN響とのBプロでまた田園をやりますので、そこになんとか参加できれば、やっと自分の中でチクルスを完結できる気がします(この際、一連の流れでN響と5番だけやらないことになるので、来年改めて5番を取り上げて戴く、というのもいいかも)。

なお、ブロムシュテット 巨匠はこのたび、めでたく「旭日中綬章」を受賞されたようです。

 

ヘルベルト・ブロムシュテット ベートーヴェンN響 Cプログラム

昨日のCプロ行ってきました。

前半のピアノ協奏曲4番、これで聴きおさめとなるピリス(ピリシュ)。イントロのピアノのタッチだけで、先週の大阪でのリサイタルの感銘が戻ってきました。劇的なアタックも派手なテクニックもなしで、これだけ心に染み入る演奏を聴かせてくれるとは・・・至福の時でした。アンコールは大阪と同じ、ベートーヴェン・バガテルの5番。

後半は交響曲の4番は、期待にたがわぬ若々しい演奏。ゲヴァントハウス管の最新盤よりもやや力感に富んだ箇所もあったと思う。この録音にくらべるとけっこうドライに感じたけれど、NHKホールの音響のせいもあったかな。演奏する方はかなりの難曲みたいで、知り合いにファゴット奏者の人がいるので聞いてみたら、できればやりたくない曲だと言っていました。そういえば、マエストロが最後の音を振り下ろしざま、すぐに客席の方を向く、というのは、同じベト4番でパーヴォ・ヤルヴィノリントンでも見たことがありますね。振っているとそういう気分になりやすい曲なのかも知れません。
 
 

 

マリア・ジョアン・ピリス最後の来日コンサート 大阪シンフォニーホール

これが最後の来日となるピリスですが、僕は14日大阪シンフォニーホールのリサイタルに遠征してきました。12日のサントリーホールでのベートーヴェン・プログラムの評判がかなり良かったみたいで、これで最後だし、ベートーヴェンピアノソナタはあと大阪しかやらないし、やはりどうしても観ておきたい、となって。

 

曲目はピアノソナタの8番悲愴、17番テンペスト、ラストの32番。私事で恐縮ですが、8番は自分でも10代の頃弾いていた曲(第一楽章のみですが)で思い入れがあります(大したレベルの演奏ではありませんが)。それはさておき、彼女の演奏はとても歌心にあふれたもので、ここまで優雅に旋律を歌わせられる悲愴ソナタを、今まで聴いたことはありませんでした。

圧巻は32番の最終楽章で、遊び心あふれ、かつ包容力豊かな演奏でしたね。大阪のお客さん達も、最後はスタオベで名残を惜しんでいました。これで、東京に戻ってのヘルベルト・ブロムシュテット巨匠との共演がますます心待ちになってきましたが、ラストなので寂しい気持ちもあります。

実は大阪遠征は今年3回目です。先月の大フィル・井上道義氏のショスタコーヴィチ2、3番(好きなんですが、全国レベルでも10年に1度実演あるかどうかのマイナー曲で外せなかった)、先々週の尾高忠明氏の大フィル監督就任のブルックナー8番ときて、今回のピリス引退公演。市内の移動も少し慣れてきました。年内にあと2、3回行くかも(笑)。

 

井上道義・大阪フィルのショスタコーヴィッチ2、3番

大阪フェティバルホール・実演機会は日本全国でも10年に1回レベルの激レアなショスタコーヴィチ交響曲2番3番を、ついに実演体験!井上ミッキー先生もノリノリで良かった。ショスタコ愛が充分に感じられた。両曲ともステージ上方に歌詞訳字幕表示。改めて聴くと、両曲とも若きショスタコ先生の奔放さと才気が全開。そこに、取ってつけたようなレーニン讃歌が付くアンバランスさも面白い。

今回はミッチー先生プレトークあり。ショスタコーヴィッチが作曲した時期が20代前半というのを強調していたな。2、3番がなければ素晴らしい4番もなかったと。十月革命からレーニン存命まではまだ自由で前衛的な時代だったようだ。

欲を言えば2番の例のサイレンがさりげなすぎたこと、金管の吹き損ないは両日とも見られたことがちょっとアレかな。ミッチー先生はかなりノリノリに見えたが、この演目が決まる内幕では色々あったようだ。難曲だろうにオケも合唱も健闘。コンマスのソロは素晴らしかった。

 

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ヘルベルト・ブロムシュテットとゲヴァントハウス管のブルックナー7番

今日の公演、個人的に多忙で行けるかビミョーでしたが、なんとか入場できました。

ブルックナー7番はブロムシュテット巨匠の十八番ですから、いい演奏になるとは思ってはいましたが、予想以上でした。2011年N響、2016年バンベルクとの同曲ももちろん素晴らしかったですが、今回の7番は、より奥行きがあり厳粛さが感じられます。インタビューで巨匠は、特にゲヴァントハウス管の低音域を賞賛していましたが、本当に今日はオケの特質が充分に生かされていたと思います。第一楽章コーダ前の静寂、第二楽章後半のコラール、フィナーレでのクライマックスと終了後の余韻など、感動的な瞬間がいくつもありました。

昨年と今年と、同じ7番をプログラムに持ってきたことに、少々愚痴も言っていたのですが、この神々しい演奏の前には、そんな瑣末なことなど吹き飛んでしまいますね(今回はゲヴァントハウス管の初演作品を並べるというテーマがありますし)。御年90歳を超え、さすがに歩き方がたどたどしくなってきた感はありますが、音楽的にはますます深みを増していることに驚嘆です。

もろもろ個人的な仕事のしがらみを強引にぶった切って、また当日券に大枚3万2千円も払って行っただけの甲斐はあったというものです。

 

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デヴィッド・ボウイのボックスセット A New Career in a New Town

まずは、トニー・ヴィスコンティによる「ロジャー」2017 NEW MIXから。 

事前にライコ盤を久々に何度か復習して備えたが、そんな必要はなかった。一聴した時のインパクトが別物。これまでは、ロウやヒーローズと比べて、どこか脱力した印象があったが、このMixは違う。今回のノーマルリマスターとも全く違う。音の抜けが良くなり、かつリズムに芯が通っている。

最初のFantastic Voyageのイントロで、早くもこれは期待できると直感した。マンドリンがクリアになって心地良い。African Night Flightでのイーノのエキゾチックなエフェクトも、より効果的。

Move Onはタイトに変貌!特にちょうど1:00頃から、アフリカ→ロシア→京都が歌われる所、サウンドが高揚して思わず引き込まれた。旅の情景がこちらにグイグイと迫って来る(涙)。Yassasinでのボウイのアラビア語ラップは、終盤に登場、いい余韻だ。

Red Sailでは、デニス・デイヴィスのタムドラムの音が前面に出て推進力が増した。今さらだがハイハットは足踏みだよね。旧盤を散漫に聴くと、単調にハットを刻んでいる印象があった。まさかドラムテイクごと差し替えたってことはないと思うが、その位のインパクトがある。ボウイの叫び、ブリューのギターも鮮烈。

アナログ版ではここからB面、DJ、Look Back In Anger、Boys Keep Swingingとヒット曲が続く。個人的には今まで、この3曲が終わるとアルバムを聴き終えた感があった。ラスト2曲に地味な印象があったので。ところが、続くRepitition!リズムが骨太になり、ヒーローズA面に負けないパワーがある。この曲が最も驚いたかも。ラストのRed Moneyも、リズムエフェクトが際立っている。

なるほどこのMIXは目から鱗、生前のボウイが賞賛していたのも頷ける。ただ欲を言えば、ライコ盤ボーナストラックの佳曲、I Pray,Oleもリミックスして欲しかった。

「ステージ」には、The Jean GenieとSaffragette Cityが新たに収録。ツアーの目玉が、ロウやヒーローズからの当時の新作曲と、あとジギーのアルバムダイジェスト再現だったことを考えると、特にSaffragette Cityは嬉しい。演奏も期待通り、申し分ない。全体的なバランスもまずまずと思う。The Jean Genie冒頭の歓声音量が作為的と思うのは気のせい?

続いては「ロウ」。評判はいくつか聞いていたが、なるほど低音域が強い。前半は概して、本来なら技術の進歩で音の分離感が良くなるところが、主観的には逆に混濁しかかっている印象を受けた。低音重視は意図的らしいが、それなら音圧をもう少し抑えるべきだったのでは?
後半のインストは、高音域でのノイズまで増えちゃってる。特にWarsawaとArt Decadeに顕著。ライコ盤ボートラのSome AreやAll Saintsが収録されなかったのは結果オーライか、とまで思った。
あと、ジャケットの色合いがかなり暗い。あまり好みではないな。

そして問題の「ヒーローズ」。タイトル曲の問題箇所では、いきなり音量が上がってドキッとした後、減衰するかのように聞こえる、としか言いようがない。結局、特別に修正版を出す模様。
全体的に音質はシャープになっている。だが、ざっくり言って、V-2 Scheneiderまでは高音域が、それ以降は低音域が気になる。Neukolnのサックスはうるさく感じるが、EMI盤も割とそうなので、これは極私的感想ってことで。そしてこの曲、終わり際に低音のノイズが。

スケアリー・モンスターズ」は、音圧は高めだが、陰影とメリハリが増した感があって、これはこれで聴ける。割と好みかも。ただしFashionのビートはストレス気味。Back The Hill Backwards後半の強烈なスネアドラムも、少し潰れ気味に聴こえる。

と言う訳でロウとヒーローズはちょっと残念。ステージとロジャーNEWMIXは良かった(これらの好印象で評価は甘めに、笑)。スケモンは微妙だが、新盤もアリって感じかな。

本当はヴィスコンティが、ロジャーに施したミックスを、他のアルバムでもやって欲しかった。ボウイがいない今、制作側が「本来の音」がどうのこうの考えても、正解は出ないだろう。それより、いまヴィスコンティが考える最良のミックスで統一した方が良かったのでは。

もっと言うと、今ちょうどヒーローズの40周年だが、ジギー~ヤンアメと違い、70年代後期のアルバムは30周年記念盤のリリースがなかった。ボウイが生きていた(体調不良はあったかも)10年前にこそ、この企画が実現して貰いたかったが・・・。

 

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マリア・シュナイダー来日公演@ブルーノート東京

7日、8日と、マリア・シュナイダーの来日公演に行ってまいりました。

僕は、近年のジャズ方面はあまり得意でなく、あのデヴィッド・ボウイ晩年の"Sue"への参加ではじめて彼女を知り、遅まきながら最新作 "The Thompson Fields"を聴きました。クラシックの印象派系の影響も感じさせる美しい作品で、ライヴも大変良かったのです。でも、ボウイの晩年との音楽的関連は正直、あまりピンときませんでした。ライブでもいくつか演奏された90年代のファーストアルバムのナンバーの方が、音的には"Sue"にいくぶん近そうですが、ボウイがマリアを起用した背景はよくわからないなあ、でも音楽が素晴らしいからいいか、などと思いつつ、生演奏を堪能しておりました。

しかし・・・。
初日のファーストステージでの最後、新曲が披露され、それは最近とみに話題の"AI"をテーマにしたナンバー。近未来、人口知能がますます発達し人間の役割を肩代わりし、最終的には人類を滅ぼすに至る、というストーリーらしいです。この曲が、今までのマリアにはないダークな深みを持った音で、ボウイの遺作、★ブラックスターの音世界にかなり近いかも、と思わせる斬新さを感じさせました。

ブルーノートのフリーペーパーのインタビュー記事に、マリアの興味深い発言がありましたので、以下、引用させていただきます。

「あのころはちょうど、"The Thompson Fields"をミックスしていた時期だった。出来上がった"Sue"を聴いたあとに自分のアルバム作業に戻ったとき、なんだか拍子抜けしちゃったのよ。"Sue"がダークでミステリアスなのに比べ、自分のアルバムはなんてのどかなのかしらって。焦ってデヴィッドにそう言ったら、彼がこう返信してきたの。『ということは、僕との経験が君を真っ逆さまの新しいどこかに誘ったんだね。それなら僕達の仕事は大成功、完了だ』」
 

その後しばらく作曲活動を休んでいた彼女は、自分が作りたい音楽が以前とは違うダークなものに変わっていたそうです。ボウイからの影響は、計り知れない、とも。これらの彼女の発言、★に参加したダニー・マッキャサリンがメンバーにいること、また今回披露された新曲を実際に体験して、マリアの次のアルバムは、ボウイファン的にも要注目の一枚となりそうだと思いました。

来日公演はまだ明日11日まで続いていますが、もう完売のようですね・・・。

 

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ダニー・マッキャサリンの”Beyond Now”とブルーノート来日公演

「最先端のテクニックとブラックスターのスピリットをあわせ持った、恐るべき一枚。」

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ボウイの遺作、★をきっかけにして本作に興味を持った人は多いだろう。かくいう自分自身もそのクチだ。

近年のジャズは全く不勉強で、内容は全く予想がつかなかったが、本作を一聴して驚いた。自分が勝手に持っていた、ジャズという音楽への先入観から来る音楽とは、全く違う。かってプログレッシヴ・ロックと呼ばれていたジャンルが、本当の意味での進化を続けていたら、こういう音が生まれたかも知れない、と思わせるほどの、新しい音世界だ。6曲目、FACEPLANTの鉄壁のアンサンブルは、かっての70年代後期キングクリムゾンや、イタリアン・ジャズロックの雄・アレアらの名盤に接した時の興奮を思い出した。

ロックミュージックの世界で、もはや新しいクリエイティヴィティを開拓する余地はほとんどないだろう、とあきらめかけていた。そんな中で、マッキャスリンらなら、ロックが進化することを停止した、その先に行ける可能性を持っているとすら思った。それにしても、今の最先端のジャズはここまでの領域をカバーしているのか・・・。あのボウイが、マリア・シュナイダーとの出会いから、マッキャスリンらのライヴを見て、それまで長年活動してきた仲間たちと離れてまでも、新作を一緒に作りたいとまで決断させたのも、わかる気がする。

表現の斬新さ、研ぎ澄まされたテクニックだけでなく、この作品には随所に素晴らしいメロディがちりばめられており、それらが相まって高揚し、素直に感動へと導かれる要素も充分にある。特に、タイトル曲の"Beyond Now"や、後半の"Glory"に顕著だ。ただ単にバカテクというだけじゃない。純粋に音楽として素晴らしい。

1年前に旅立ったボウイへのオマージュ、A SMALL PLOT OF LAND、あのワルシャワも、単なるトリビュートに留まらない、気迫溢れるプレイだ。そしてここには、ボウイの遺作、ブラックスターから受け継がれている、独特の磁場がある。まさに、類まれな表現力を持ち、かつボウイの最晩年を共に過ごし、そのスピリットを受け継いだ彼らにしか出せない音だろう。

という訳で、2017年2月1日&2日ブルーノート東京における彼らの来日公演に行ってきたが、これが期待に違わぬ見事なライヴだった!生演奏でも少しも質を落とさない見事なアンサンブル、曲が展開するにつれ熱気を増していく演奏。ダニーは朴訥な感じの好青年で、容貌がどことなくボウイに似ている気がするな。

シンプルなドラムセットで複雑なビートを叩き分けるマーク・ジュリアナ、重心のしっかりしたティム・ルフェーベルのリズムセクションは頼もしい。そして、予想以上にサウンドへの貢献度が高いのが、ジェイソン・リンドナーのキーボードだと思う。巧いというだけでなく、ものすごく繊細。あのワルシャワで、イーノ的なニュアンスのフレーズを弾いても、何の違和感もない。

Shake Loose、Beyond Now、Glory、FACEPLANTといった本作らの演奏も、もちろん素晴らしかった。そして、あのボウイのArt DecadeやLook Back In Angerがサプライズ演奏され、ラストを締めくくるラザルスが、ダニーの心に染み入る感動的なサックスで演奏されたことを付け加えておこう。

 

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