Ricochet

音楽ものレビュー、雑談用のブログです。2019/2/24開始。

ダニー・マッキャサリンの”Beyond Now”とブルーノート来日公演

「最先端のテクニックとブラックスターのスピリットをあわせ持った、恐るべき一枚。」

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ボウイの遺作、★をきっかけにして本作に興味を持った人は多いだろう。かくいう自分自身もそのクチだ。

近年のジャズは全く不勉強で、内容は全く予想がつかなかったが、本作を一聴して驚いた。自分が勝手に持っていた、ジャズという音楽への先入観から来る音楽とは、全く違う。かってプログレッシヴ・ロックと呼ばれていたジャンルが、本当の意味での進化を続けていたら、こういう音が生まれたかも知れない、と思わせるほどの、新しい音世界だ。6曲目、FACEPLANTの鉄壁のアンサンブルは、かっての70年代後期キングクリムゾンや、イタリアン・ジャズロックの雄・アレアらの名盤に接した時の興奮を思い出した。

ロックミュージックの世界で、もはや新しいクリエイティヴィティを開拓する余地はほとんどないだろう、とあきらめかけていた。そんな中で、マッキャスリンらなら、ロックが進化することを停止した、その先に行ける可能性を持っているとすら思った。それにしても、今の最先端のジャズはここまでの領域をカバーしているのか・・・。あのボウイが、マリア・シュナイダーとの出会いから、マッキャスリンらのライヴを見て、それまで長年活動してきた仲間たちと離れてまでも、新作を一緒に作りたいとまで決断させたのも、わかる気がする。

表現の斬新さ、研ぎ澄まされたテクニックだけでなく、この作品には随所に素晴らしいメロディがちりばめられており、それらが相まって高揚し、素直に感動へと導かれる要素も充分にある。特に、タイトル曲の"Beyond Now"や、後半の"Glory"に顕著だ。ただ単にバカテクというだけじゃない。純粋に音楽として素晴らしい。

1年前に旅立ったボウイへのオマージュ、A SMALL PLOT OF LAND、あのワルシャワも、単なるトリビュートに留まらない、気迫溢れるプレイだ。そしてここには、ボウイの遺作、ブラックスターから受け継がれている、独特の磁場がある。まさに、類まれな表現力を持ち、かつボウイの最晩年を共に過ごし、そのスピリットを受け継いだ彼らにしか出せない音だろう。

という訳で、2017年2月1日&2日ブルーノート東京における彼らの来日公演に行ってきたが、これが期待に違わぬ見事なライヴだった!生演奏でも少しも質を落とさない見事なアンサンブル、曲が展開するにつれ熱気を増していく演奏。ダニーは朴訥な感じの好青年で、容貌がどことなくボウイに似ている気がするな。

シンプルなドラムセットで複雑なビートを叩き分けるマーク・ジュリアナ、重心のしっかりしたティム・ルフェーベルのリズムセクションは頼もしい。そして、予想以上にサウンドへの貢献度が高いのが、ジェイソン・リンドナーのキーボードだと思う。巧いというだけでなく、ものすごく繊細。あのワルシャワで、イーノ的なニュアンスのフレーズを弾いても、何の違和感もない。

Shake Loose、Beyond Now、Glory、FACEPLANTといった本作らの演奏も、もちろん素晴らしかった。そして、あのボウイのArt DecadeやLook Back In Angerがサプライズ演奏され、ラストを締めくくるラザルスが、ダニーの心に染み入る感動的なサックスで演奏されたことを付け加えておこう。

 

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