Ricochet

音楽ものレビュー、雑談用のブログです。2019/2/24開始。

井上道義・大阪フィルのショスタコーヴィッチ2、3番

大阪フェティバルホール・実演機会は日本全国でも10年に1回レベルの激レアなショスタコーヴィチ交響曲2番3番を、ついに実演体験!井上ミッキー先生もノリノリで良かった。ショスタコ愛が充分に感じられた。両曲ともステージ上方に歌詞訳字幕表示。改めて聴くと、両曲とも若きショスタコ先生の奔放さと才気が全開。そこに、取ってつけたようなレーニン讃歌が付くアンバランスさも面白い。

今回はミッチー先生プレトークあり。ショスタコーヴィッチが作曲した時期が20代前半というのを強調していたな。2、3番がなければ素晴らしい4番もなかったと。十月革命からレーニン存命まではまだ自由で前衛的な時代だったようだ。

欲を言えば2番の例のサイレンがさりげなすぎたこと、金管の吹き損ないは両日とも見られたことがちょっとアレかな。ミッチー先生はかなりノリノリに見えたが、この演目が決まる内幕では色々あったようだ。難曲だろうにオケも合唱も健闘。コンマスのソロは素晴らしかった。

 

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ヘルベルト・ブロムシュテットとゲヴァントハウス管のブルックナー7番

今日の公演、個人的に多忙で行けるかビミョーでしたが、なんとか入場できました。

ブルックナー7番はブロムシュテット巨匠の十八番ですから、いい演奏になるとは思ってはいましたが、予想以上でした。2011年N響、2016年バンベルクとの同曲ももちろん素晴らしかったですが、今回の7番は、より奥行きがあり厳粛さが感じられます。インタビューで巨匠は、特にゲヴァントハウス管の低音域を賞賛していましたが、本当に今日はオケの特質が充分に生かされていたと思います。第一楽章コーダ前の静寂、第二楽章後半のコラール、フィナーレでのクライマックスと終了後の余韻など、感動的な瞬間がいくつもありました。

昨年と今年と、同じ7番をプログラムに持ってきたことに、少々愚痴も言っていたのですが、この神々しい演奏の前には、そんな瑣末なことなど吹き飛んでしまいますね(今回はゲヴァントハウス管の初演作品を並べるというテーマがありますし)。御年90歳を超え、さすがに歩き方がたどたどしくなってきた感はありますが、音楽的にはますます深みを増していることに驚嘆です。

もろもろ個人的な仕事のしがらみを強引にぶった切って、また当日券に大枚3万2千円も払って行っただけの甲斐はあったというものです。

 

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デヴィッド・ボウイのボックスセット A New Career in a New Town

まずは、トニー・ヴィスコンティによる「ロジャー」2017 NEW MIXから。 

事前にライコ盤を久々に何度か復習して備えたが、そんな必要はなかった。一聴した時のインパクトが別物。これまでは、ロウやヒーローズと比べて、どこか脱力した印象があったが、このMixは違う。今回のノーマルリマスターとも全く違う。音の抜けが良くなり、かつリズムに芯が通っている。

最初のFantastic Voyageのイントロで、早くもこれは期待できると直感した。マンドリンがクリアになって心地良い。African Night Flightでのイーノのエキゾチックなエフェクトも、より効果的。

Move Onはタイトに変貌!特にちょうど1:00頃から、アフリカ→ロシア→京都が歌われる所、サウンドが高揚して思わず引き込まれた。旅の情景がこちらにグイグイと迫って来る(涙)。Yassasinでのボウイのアラビア語ラップは、終盤に登場、いい余韻だ。

Red Sailでは、デニス・デイヴィスのタムドラムの音が前面に出て推進力が増した。今さらだがハイハットは足踏みだよね。旧盤を散漫に聴くと、単調にハットを刻んでいる印象があった。まさかドラムテイクごと差し替えたってことはないと思うが、その位のインパクトがある。ボウイの叫び、ブリューのギターも鮮烈。

アナログ版ではここからB面、DJ、Look Back In Anger、Boys Keep Swingingとヒット曲が続く。個人的には今まで、この3曲が終わるとアルバムを聴き終えた感があった。ラスト2曲に地味な印象があったので。ところが、続くRepitition!リズムが骨太になり、ヒーローズA面に負けないパワーがある。この曲が最も驚いたかも。ラストのRed Moneyも、リズムエフェクトが際立っている。

なるほどこのMIXは目から鱗、生前のボウイが賞賛していたのも頷ける。ただ欲を言えば、ライコ盤ボーナストラックの佳曲、I Pray,Oleもリミックスして欲しかった。

「ステージ」には、The Jean GenieとSaffragette Cityが新たに収録。ツアーの目玉が、ロウやヒーローズからの当時の新作曲と、あとジギーのアルバムダイジェスト再現だったことを考えると、特にSaffragette Cityは嬉しい。演奏も期待通り、申し分ない。全体的なバランスもまずまずと思う。The Jean Genie冒頭の歓声音量が作為的と思うのは気のせい?

続いては「ロウ」。評判はいくつか聞いていたが、なるほど低音域が強い。前半は概して、本来なら技術の進歩で音の分離感が良くなるところが、主観的には逆に混濁しかかっている印象を受けた。低音重視は意図的らしいが、それなら音圧をもう少し抑えるべきだったのでは?
後半のインストは、高音域でのノイズまで増えちゃってる。特にWarsawaとArt Decadeに顕著。ライコ盤ボートラのSome AreやAll Saintsが収録されなかったのは結果オーライか、とまで思った。
あと、ジャケットの色合いがかなり暗い。あまり好みではないな。

そして問題の「ヒーローズ」。タイトル曲の問題箇所では、いきなり音量が上がってドキッとした後、減衰するかのように聞こえる、としか言いようがない。結局、特別に修正版を出す模様。
全体的に音質はシャープになっている。だが、ざっくり言って、V-2 Scheneiderまでは高音域が、それ以降は低音域が気になる。Neukolnのサックスはうるさく感じるが、EMI盤も割とそうなので、これは極私的感想ってことで。そしてこの曲、終わり際に低音のノイズが。

スケアリー・モンスターズ」は、音圧は高めだが、陰影とメリハリが増した感があって、これはこれで聴ける。割と好みかも。ただしFashionのビートはストレス気味。Back The Hill Backwards後半の強烈なスネアドラムも、少し潰れ気味に聴こえる。

と言う訳でロウとヒーローズはちょっと残念。ステージとロジャーNEWMIXは良かった(これらの好印象で評価は甘めに、笑)。スケモンは微妙だが、新盤もアリって感じかな。

本当はヴィスコンティが、ロジャーに施したミックスを、他のアルバムでもやって欲しかった。ボウイがいない今、制作側が「本来の音」がどうのこうの考えても、正解は出ないだろう。それより、いまヴィスコンティが考える最良のミックスで統一した方が良かったのでは。

もっと言うと、今ちょうどヒーローズの40周年だが、ジギー~ヤンアメと違い、70年代後期のアルバムは30周年記念盤のリリースがなかった。ボウイが生きていた(体調不良はあったかも)10年前にこそ、この企画が実現して貰いたかったが・・・。

 

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マリア・シュナイダー来日公演@ブルーノート東京

7日、8日と、マリア・シュナイダーの来日公演に行ってまいりました。

僕は、近年のジャズ方面はあまり得意でなく、あのデヴィッド・ボウイ晩年の"Sue"への参加ではじめて彼女を知り、遅まきながら最新作 "The Thompson Fields"を聴きました。クラシックの印象派系の影響も感じさせる美しい作品で、ライヴも大変良かったのです。でも、ボウイの晩年との音楽的関連は正直、あまりピンときませんでした。ライブでもいくつか演奏された90年代のファーストアルバムのナンバーの方が、音的には"Sue"にいくぶん近そうですが、ボウイがマリアを起用した背景はよくわからないなあ、でも音楽が素晴らしいからいいか、などと思いつつ、生演奏を堪能しておりました。

しかし・・・。
初日のファーストステージでの最後、新曲が披露され、それは最近とみに話題の"AI"をテーマにしたナンバー。近未来、人口知能がますます発達し人間の役割を肩代わりし、最終的には人類を滅ぼすに至る、というストーリーらしいです。この曲が、今までのマリアにはないダークな深みを持った音で、ボウイの遺作、★ブラックスターの音世界にかなり近いかも、と思わせる斬新さを感じさせました。

ブルーノートのフリーペーパーのインタビュー記事に、マリアの興味深い発言がありましたので、以下、引用させていただきます。

「あのころはちょうど、"The Thompson Fields"をミックスしていた時期だった。出来上がった"Sue"を聴いたあとに自分のアルバム作業に戻ったとき、なんだか拍子抜けしちゃったのよ。"Sue"がダークでミステリアスなのに比べ、自分のアルバムはなんてのどかなのかしらって。焦ってデヴィッドにそう言ったら、彼がこう返信してきたの。『ということは、僕との経験が君を真っ逆さまの新しいどこかに誘ったんだね。それなら僕達の仕事は大成功、完了だ』」
 

その後しばらく作曲活動を休んでいた彼女は、自分が作りたい音楽が以前とは違うダークなものに変わっていたそうです。ボウイからの影響は、計り知れない、とも。これらの彼女の発言、★に参加したダニー・マッキャサリンがメンバーにいること、また今回披露された新曲を実際に体験して、マリアの次のアルバムは、ボウイファン的にも要注目の一枚となりそうだと思いました。

来日公演はまだ明日11日まで続いていますが、もう完売のようですね・・・。

 

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ダニー・マッキャサリンの”Beyond Now”とブルーノート来日公演

「最先端のテクニックとブラックスターのスピリットをあわせ持った、恐るべき一枚。」

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ボウイの遺作、★をきっかけにして本作に興味を持った人は多いだろう。かくいう自分自身もそのクチだ。

近年のジャズは全く不勉強で、内容は全く予想がつかなかったが、本作を一聴して驚いた。自分が勝手に持っていた、ジャズという音楽への先入観から来る音楽とは、全く違う。かってプログレッシヴ・ロックと呼ばれていたジャンルが、本当の意味での進化を続けていたら、こういう音が生まれたかも知れない、と思わせるほどの、新しい音世界だ。6曲目、FACEPLANTの鉄壁のアンサンブルは、かっての70年代後期キングクリムゾンや、イタリアン・ジャズロックの雄・アレアらの名盤に接した時の興奮を思い出した。

ロックミュージックの世界で、もはや新しいクリエイティヴィティを開拓する余地はほとんどないだろう、とあきらめかけていた。そんな中で、マッキャスリンらなら、ロックが進化することを停止した、その先に行ける可能性を持っているとすら思った。それにしても、今の最先端のジャズはここまでの領域をカバーしているのか・・・。あのボウイが、マリア・シュナイダーとの出会いから、マッキャスリンらのライヴを見て、それまで長年活動してきた仲間たちと離れてまでも、新作を一緒に作りたいとまで決断させたのも、わかる気がする。

表現の斬新さ、研ぎ澄まされたテクニックだけでなく、この作品には随所に素晴らしいメロディがちりばめられており、それらが相まって高揚し、素直に感動へと導かれる要素も充分にある。特に、タイトル曲の"Beyond Now"や、後半の"Glory"に顕著だ。ただ単にバカテクというだけじゃない。純粋に音楽として素晴らしい。

1年前に旅立ったボウイへのオマージュ、A SMALL PLOT OF LAND、あのワルシャワも、単なるトリビュートに留まらない、気迫溢れるプレイだ。そしてここには、ボウイの遺作、ブラックスターから受け継がれている、独特の磁場がある。まさに、類まれな表現力を持ち、かつボウイの最晩年を共に過ごし、そのスピリットを受け継いだ彼らにしか出せない音だろう。

という訳で、2017年2月1日&2日ブルーノート東京における彼らの来日公演に行ってきたが、これが期待に違わぬ見事なライヴだった!生演奏でも少しも質を落とさない見事なアンサンブル、曲が展開するにつれ熱気を増していく演奏。ダニーは朴訥な感じの好青年で、容貌がどことなくボウイに似ている気がするな。

シンプルなドラムセットで複雑なビートを叩き分けるマーク・ジュリアナ、重心のしっかりしたティム・ルフェーベルのリズムセクションは頼もしい。そして、予想以上にサウンドへの貢献度が高いのが、ジェイソン・リンドナーのキーボードだと思う。巧いというだけでなく、ものすごく繊細。あのワルシャワで、イーノ的なニュアンスのフレーズを弾いても、何の違和感もない。

Shake Loose、Beyond Now、Glory、FACEPLANTといった本作らの演奏も、もちろん素晴らしかった。そして、あのボウイのArt DecadeやLook Back In Angerがサプライズ演奏され、ラストを締めくくるラザルスが、ダニーの心に染み入る感動的なサックスで演奏されたことを付け加えておこう。

 

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ボウイのベスト盤「レガシー」について

ボウイのベストについては、今までも様々な盤がリリースされてきたが、彼の他界後としては、この「レガシー」がはじめてのリリースとなる。というより、これをもって最終的な決定盤ベストとなるのだろうか。内容的には、ボウイファンであればどれもおなじみの、不世出の名曲、大ヒット曲が集められている。

しかし正直、このリリースに関して、ちょっとビミョーな気持ちもある。なぜなら、今から2年前の2014年、「ナッシング・ハズ・チェンジド」という、かなり充実したベスト盤が出ているからだ。今までのベスト盤にはない、最初期のデラム時代から、最終作、★の"Sue"の初期バージョンに至るまで、彼の生涯に渡るキャリアを包括する内容となっていたからだ。しかも、初CD化特典である"Let Me Sleep Beside You"と、"You Turn To Drive"が、なかなかいい曲なのだ。

そして、ナッシング~の編集は、時代的に新しく発表されたものから順番に収録し、21世紀→90年代→80年代→70年代→デビュー当時へと、時計の針を逆向きに遡っていく構成が優れている。単なるベスト盤というに留まらない、独特の編集観に貫かれているのだ。むろん、まだ存命だったボウイ本人の意思も、充分に反映されているであろう。アルバムを全部持っていても、あえてこっちをかけたくなる時もあるので。個人的にも、ボウイ他界直後は、彼の軌跡を振り返りたくなった時、このナッシング・ハズ・チェンジドを遺作★と共に、よく聴いていたものだ。

じつは内心、ボウイの他界後、ベスト盤は、ナッシング・ハズ・チェンジドを決定盤として欲しいな、他のレジェンド達のケースで残念ながら見受けられる、本人の意思の反映されないベストの乱発はやめて欲しいな、と思っていた。でもってそんな矢先、この「レガシー」がリリースとなった。

収録されている曲をチェックすると、大部分がナッシング~と重複している。ちょっとこれは、懸念の通り、似たようなベスト盤が混在し混乱を招くのでは?と思った。しかし、実際にレガシーを購入して、日本盤ライナーノートを読んでみると、どうやらベストはこちらを決定盤とし、ナッシング~をカタログから外すようだ。そうであれば、混乱は少なくなるだろうが、あれはカタログから外してしまうには、あまりにも惜しい内容なんである。

レガシー収録の特典としては、火星の生活2016ミックスというのはある。内容的には、ドラム等のリズムトラックを抜き、曲の骨子を浮き彫りにした内容だ。(リック・ウエイクマン2014来日公演で、リックがこの曲をソロピアノで披露したのを思い出しました) あとは、★の正規収録曲が反映されているというのはあるが、その位であれば、ナッシング~をマイナーチェンジして欲しかった、と思うんだなぁ。ライナーには、このベスト盤差し替えは、ボウイ本人の意思も込められているはずだ、という意味の記述があるが、個人的には、そうかなあ?という気がしてしまう(むろん、本当のところはわからない)。

あと、ナッシング~の収録曲で、レガシーでは抜けてしまった名曲も結構ある。特に、Diamond Dogs、Wild Is The Wind、Buddha of Suburbia、Strangers When We Meet、Love Is Lost Mixあたりは惜しい。最初期の"Can't Help Thinking About Me"あたりもイイよ。まあ、ナッシング~のCD3枚組とレガシーの2枚組の物理的な違いもあるから、仕方ないんだけれどね。

まあ、いずれにせよ、ボウイのベスト盤購入を考えている方には、まだ在庫があるうちに、ナッシング・ハズ・チェンジドの方をゲットしておくのをおすすめします。とくに、ボウイの曲は多少知っているが、もっと色々な時代のものに触れてみたい方には。まだボウイの曲を聴いたことがなく、これから体験してみたいという方は、最初はこのレガシーからでもいいのではないんでしょうか。

 

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ニューオーダー”Music Complete”と2016来日公演

新生ニューオーダー最初の新作アルバム「ミュージック・コンプリート」。フッキーが抜けて、ジリアンが戻ってきて5人の構成でまずツアーが行われたが、新曲の御披露目は今作がはじめてということになる。

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言うまでもないことだが、フッキーのベースの持つ独自性は、彼にしか出せないものだ。誰も彼の代わりを100%できるわけではない。音が単にゴリゴリと太いだけでなく、独特の哀愁味がある。バーニーの最新自伝を読んでも、フッキーのバンド在籍末期の言動や行動については、まあ、色々と書かれている。だが、彼のベースプレイそのものについては、ほとんどケチはつけられていない。

新しいベーシストのトニー・チャップマンは巧いプレイヤーだし、とても器用だと思う。だが、やはり微妙にテイストが違うのは避けられない。最初にこのアルバムを聴いたとき、フッキーがバンドにもたらしていたであろう推進力は、正直やはり減衰していると感じた。

しかししかし、なのである。

何度か今作を繰り返し聴いていく内に、特にダンサブル系の音がだんだんしっくりと身体にハマりはじめた。それどころか、よくよく曲に馴染んでいくと、じつにカッコいい!
特に、あのコンフュージョンの進化系とでもいうべき「プラスチック」。そして、ダッサダサのディスコノリと紙一重ながら、奇跡的に絶品の「トウッティ・フルッティ」。この2曲は格別だ。

思い出してみると、かっての80年代NOのダンサブル・チューンも、最初の印象は、なんかありがちなディスコソングだなあ、というものが多かった。しかし、だんだん曲にハマっていきだして、最終的にはカッコいい!という評価に落ち着く。そういう「後からジワジワ感(笑)」を味わうのも、実に久しぶりだな。これは、ジリアンの再加入による、ジリアン・マジックによるところが大きいと思う。

思い起こせば、ジリアンがいったん抜けてからのアルバム「ゲット・レディ」や「ウエイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール」は、なかなかの推進力に満ちたパワフルなアルバムだった。どちらも自分では一発で気に入り、ヘビロテしたものだ。でもこれらの作品では、最初に抱いた印象からは、その後大きく評価が変わることはなかった。そこが今作「ミュージック・コンプリート」との違いかな。
改めてあわせて聴いてみると、フッキーがバンドにもたらしていたもの、ジリアンがもたらしているものが見えてくる。

「アカデミック」や「スーパーヒーテッド」など、後半のストレートなナンバーもなかなかいい。緩徐的な位置づけの「ナッシング・バット・ア・フール」でさえ、魅惑的なダンスチューンに転用できる潜在力を秘めた曲だと思う。むしろ、先行リリースの「レストレス」は、今作でも地味目の部類に入る印象があるかな。あと個人的には、前作「ウエイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール」からの流れを継承したかの「ザ・ゲーム」が、かなりのお気に入り。


久方ぶりのNO単独来日公演・2016年5月25日&27日新木場においても、これら魅力的な新曲が、かっての名曲に引けを取らないエナジーで演奏されるのを目の当たりにできた。そしてバンドは、見事にフッキーの幻影を吹っ切ったとも感じた。まあフッキー自身の今後の動向には、それはそれで興味あるけどね。

まだまだこのバンドは、さらなるクリエイティヴィティの開拓の余地を残していると思う。と、こういう、アルバムタイトルとの対極の意味を想起したくなるような、逆説的な題名の付け方も久しぶりって感じ。

今後も息の長い活動を期待したいものだ。

 

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キャメル2016来日 六本木EX

六本木EXの初日に行ってきました。

演奏は素晴らしかったです。アンディのコンディションが良かったのは何より。彼のハートウオームで、かつ確かな力に満ちたプレイを目の当たりにしたら、同じこの方が難病で大変な思いをしていたとは信じがたいです。

ここ数年、いわゆるプログレ関連の来日ライブでも、ミュージシャンの体調不良によるメンバー変更や来日そのものの中止がいくつかあり、たいへん残念な思いをしました。しかし今回のキャメルには、本当に胸のすく思いでした。これからの活躍も楽しみにしています。

 

今回のメンバーでは、長年アンディを支えてきたコリン・バースとデニス・クレメントの頼もしさはもちろんですが、注目は新キーボード奏者のピーター・ジョーンズでしょう。

僕も個人的にキーボードを弾きますし、彼のプレイをかなり注視していました。で、さりげなくうまいなあ、いや、驚くほどうまい!と思いながら聴いてました。かつての録音と比べても全く違和感ないですし、早くも今のバンド、メンバーに溶け込んでいる感じでした。それも鍵盤2台のみのシンプルなセットで、です。今は往年の名器の音色がソフトで持ち運びできる便利な時代とはいえ、実にスムースな使いこなしでしたね。しかも見る限り、下段の鍵盤1台だけで大部分の音を奏でていたようです。後でこの方が盲目と知って、またびっくりしましたが。

この日は、スノーグースのアルバムからは、いきなり画家ラヤダーのテーマの全体合奏の所から入り、ラヤダー街へ行く、そこから後半のプリパレーションの暗転箇所につなげ、ダンケルクまでの、ダイジェスト版のようなセット。これはこれで良かったと思います。

ムーンマッドネスからは、"Song within a song"、"Spirit of the water"、"Air born"、"Lunar Sea"とやり、今回もっとも採用率の高いアルバムだった、と。いまちょうど満月の時期ですから、タイミング的にもちょうどバッチリだなあと思いました。

 

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クリムゾン2015来日

今回は、僕は東京の2日目に行ってきました。
http://www.setlist.fm/setlist/king-crimson/2015/bunkamura-orchard-hall-tokyo-japan-53f2ef89.html

この日のセトリ特典は、セイラーズ・テイルとワンモアレッドということになるのかな。
まあ他の日に演ってる太陽や戦慄パート1とレッドが聴けなかったのは確かに残念でしたが、それでも往年の名曲から現在に至る数々の名演を、充分堪能できました。やはりメル・コリンズの再加入は大きかった。

新曲メルトダウンはなかなかいい曲ですね。個人的な感想ですが、あの曲の演奏後から、数々の名曲群も、よりエナジーアップしていった気がします。一方で、セイラーズテイルのエンディングの余韻とか、21st冒頭の、あの独特の効果音とか、原曲のニュアンスがおどろくほど大事にされている部分もあって、いろいろと発見のあるライヴだったと思いました。

 

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ストラングラーズ “Feel It Live”

2012年初頭の『Giants』リリースに伴うツアーから収録されたストラングラーズのライヴアルバム。

ストラングラーズのライヴ盤には共通して大きな特徴があって、過去のおなじみの曲が、根本的なスピリットはそのままに、ライヴ収録時のその時々の方法論に合わせて、進化した形で演奏されていることだろう。たとえば、「X‐CERTS」であれば、ファーストやセカンドからの曲が、「ブラック&ホワイト」のようなヘヴィネスを突き詰めた、一段と重い音に変貌していた。また、「All Day & All Of The Night」であれば、オーラル・スカラプチャーズやドリームタイムに見られる、芸術性の高い独特の美意識が透過されたことで、スタンダードなナンバーに新しい魅力をもたらしていた。

前置きが長くなったが、今回の「Feel It Live」は、彼らが様々な変遷を経て4人編成に戻った上でのライヴである。スケールアップした上で原点回帰した傑作、SUITE16やGiantsなどにおけるテンションが、そのまま過去の曲にも反映されている。だから、曲順がおなじみのサムタイムス→新曲ジャイアンツ→またおなじみのピーチズ、→新曲Mercury Rising→5 Minutesと順番に展開されていっても、何の違和感もない。また過去の曲も新たな新鮮味を持って響いてくる。これはバズ・ワーンが完全にバンドに溶け込んでいることも大きい。選曲も非常に工夫されていて、「これをライブ盤で聴いてみたかったんだよ」というナンバーが、ばっちり入っていたりする。

惜しむらくは、全体的に音がややドライに収録されているのと(それはそれで各パートをクリアに聴きやすいメリットはあるが)、客席の盛り上がりが、ミックスバランス的にかなり弱められてしまっている、といったところか。

現状、国内盤が出るムードにないのは非常に残念なところではあるが、特にストラングラーズからご無沙汰してしまっている方々には、おすすめの一枚。

 

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01. Waltz In Black
02. Burning Up Time
03. The Raven
04. Lowlands
05. Hanging Around
06. Unbroken
07. Time Was Once On My Side
08. Sometimes
09. Giants
10. Peaches
11. Mercury Rising
12. 5 Minutes
13. Relentless
14. Lost Control
15. Something Better Change
16. Freedom Is Insane
17. No More Heroes
18. Boom Boom
19. Nice ‘N Sleazy
20. Duchess
21. Tank