Ricochet

音楽ものレビュー、雑談用のブログです。2019/2/24開始。

ニューオーダー”Music Complete”と2016来日公演

新生ニューオーダー最初の新作アルバム「ミュージック・コンプリート」。フッキーが抜けて、ジリアンが戻ってきて5人の構成でまずツアーが行われたが、新曲の御披露目は今作がはじめてということになる。

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言うまでもないことだが、フッキーのベースの持つ独自性は、彼にしか出せないものだ。誰も彼の代わりを100%できるわけではない。音が単にゴリゴリと太いだけでなく、独特の哀愁味がある。バーニーの最新自伝を読んでも、フッキーのバンド在籍末期の言動や行動については、まあ、色々と書かれている。だが、彼のベースプレイそのものについては、ほとんどケチはつけられていない。

新しいベーシストのトニー・チャップマンは巧いプレイヤーだし、とても器用だと思う。だが、やはり微妙にテイストが違うのは避けられない。最初にこのアルバムを聴いたとき、フッキーがバンドにもたらしていたであろう推進力は、正直やはり減衰していると感じた。

しかししかし、なのである。

何度か今作を繰り返し聴いていく内に、特にダンサブル系の音がだんだんしっくりと身体にハマりはじめた。それどころか、よくよく曲に馴染んでいくと、じつにカッコいい!
特に、あのコンフュージョンの進化系とでもいうべき「プラスチック」。そして、ダッサダサのディスコノリと紙一重ながら、奇跡的に絶品の「トウッティ・フルッティ」。この2曲は格別だ。

思い出してみると、かっての80年代NOのダンサブル・チューンも、最初の印象は、なんかありがちなディスコソングだなあ、というものが多かった。しかし、だんだん曲にハマっていきだして、最終的にはカッコいい!という評価に落ち着く。そういう「後からジワジワ感(笑)」を味わうのも、実に久しぶりだな。これは、ジリアンの再加入による、ジリアン・マジックによるところが大きいと思う。

思い起こせば、ジリアンがいったん抜けてからのアルバム「ゲット・レディ」や「ウエイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール」は、なかなかの推進力に満ちたパワフルなアルバムだった。どちらも自分では一発で気に入り、ヘビロテしたものだ。でもこれらの作品では、最初に抱いた印象からは、その後大きく評価が変わることはなかった。そこが今作「ミュージック・コンプリート」との違いかな。
改めてあわせて聴いてみると、フッキーがバンドにもたらしていたもの、ジリアンがもたらしているものが見えてくる。

「アカデミック」や「スーパーヒーテッド」など、後半のストレートなナンバーもなかなかいい。緩徐的な位置づけの「ナッシング・バット・ア・フール」でさえ、魅惑的なダンスチューンに転用できる潜在力を秘めた曲だと思う。むしろ、先行リリースの「レストレス」は、今作でも地味目の部類に入る印象があるかな。あと個人的には、前作「ウエイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール」からの流れを継承したかの「ザ・ゲーム」が、かなりのお気に入り。


久方ぶりのNO単独来日公演・2016年5月25日&27日新木場においても、これら魅力的な新曲が、かっての名曲に引けを取らないエナジーで演奏されるのを目の当たりにできた。そしてバンドは、見事にフッキーの幻影を吹っ切ったとも感じた。まあフッキー自身の今後の動向には、それはそれで興味あるけどね。

まだまだこのバンドは、さらなるクリエイティヴィティの開拓の余地を残していると思う。と、こういう、アルバムタイトルとの対極の意味を想起したくなるような、逆説的な題名の付け方も久しぶりって感じ。

今後も息の長い活動を期待したいものだ。

 

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