Ricochet

音楽ものレビュー、雑談用のブログです。2019/2/24開始。

ショスタコーヴィッチ弦楽四重奏曲 一日全15曲演奏会

アトリウム四重奏団の武蔵野文化会館 ショスタコーヴィッチ 1Dayチクルス、行ってきました。会場は、実にほとんど満員の盛況。

今回、このカルテットの既存録音や、手持ちの全集などを予習復習する時間は取れず、未知数の演奏会となりました。が、冒頭の展開を聴いて、とても「若手」とは思えない熟練した響きを耳にして、これは、かなりすごい1日になるだろうと直感しました。
じつはこの日、個人的に別所で行きたい演奏会がもう1つあり、途中でそっちに抜け出して、また終了後戻ってこようかなどと、不埒な考えを抱いていたのですが、その邪念はいきなり吹っ飛びばされまして、ちゃんと全部みていくことを決断。

個人的に全曲中もっとも好きな曲は、前半の「3番」。交響曲8番の悲劇性と9番の諧謔性のエッセンスを凝縮し、14番死者の歌の無常性までも予見する大傑作を、びしっと決めてきてくれたので、これは嬉しかったです。

演奏会の性格上、多少「流した」スタイルになってもやむなし、と事前に思っていましたが、とんでもない!むしろ、今まで観てきた過去の15曲からのどの演奏会よりも、1曲1曲の密度が、凝縮されていたとさえ言えます。最も名高い8番、個人的には、なかなか心底良かったと思える演奏に出会えないのですが、今回、この作品についても、嬉しい例外が起こりました。7番から10番あたりはもっとも盛り上がる部分ですが、このあたりの高潮も、がっちりと力強く決めてきました。

最後の15番では、会場のライトを落として真っ暗な中での演奏となりました。以前、マーラー交響曲9番のフィナーレで似たような演出を見たことがありますが、この15番のような、ただでさえ自分を地底の奥深くまで持っていかれそうな、史上最深の作品でこれをやるとは、いい度胸してます。

そしてライトが再点灯され間もなく会場は、日本の演奏会では滅多に見られない「総立ち」に。
それも、ショスタコ弦楽四重奏曲スタンディングオベーション!なんて、前代未聞なのではないでしょうか。
会場には、マニアックなリスナーの方々、プロの演奏家の方もかなりいらしていたと思いますが、一方で、ショスタコーヴィッチの弦楽四重奏は全くのはじめて、という方々も、おそらく多数いらしたと推測します。それでも、いい曲、いい演奏は、やはり伝わるものなのだな、と改めて実感いたしました。ほとんどの方が脱落することなく、最後までこのディープなマラソンを完走されていったようですし。
彼らの5年後・10年後は楽しみ、というか、もはや末恐ろしいものがありますね。


それにしても、チェロのアンナさん、キレイですねえ 


同じ武蔵野で、このチクルスの2日前にパーヴォ・ヤルヴィ&カンマーフィルのベートーヴェン3番、4番などを聴いてきたばかりでしたが、こちらも実に素晴らしく、現時点での世界最高峰のベートーヴェンだったと思いました(それでもスタオベにはなりませんでしたが)。今回のチクルスといい、武蔵野文化会館さん、実にいいお仕事をなさっていると思います。