Ricochet

音楽ものレビュー、雑談用のブログです。2019/2/24開始。

ブロムシュテット ・N響のチャイコフスキー

まずは、9月20日NHKホール、ブロムシュテット巨匠&NHK交響楽団による、モーツァルト交響曲40番&チャイコフスキー交響曲5番に行ってきました。

3年前にもチャイ5番は同じN響とのコンビで取り上げられていますが、残念ながら聴き逃してしまったので、今回は楽しみにしていました。前売チケットは完売の盛況。

しかし考えてみると、モーツアルトチャイコフスキー交響曲を同日の演目で、ということ自体、なかなかすごいと思いました。チャイ5番を過度に劇的に強奏させるタイプの指揮者だと、前半プログラムとの整合性が取れなくなる恐れが多大です。巨匠の選曲の意図は、フィルハーモニー誌に掲載されていますが、まさにブロムシュテットだからなしえたプログラムでしょう。

チャイコフスキーの5番、立ち上がりは淡々としているかなあと感じましたが、徐々に巨匠の音世界になじんでくると、清新な演奏の中に充分にドラマ性が盛り込まれていると思いました。1楽章展開部での、リズミカル動機発展シーンあたりのダイナミックなドライブ感は実にお見事。
また第2楽章、運命の主題が劇的に奏でられた後の、沈黙の美しさ。そして第2楽章自体の終わりの余韻があまりにも鮮やかで、思わず拍手しそうになってしまったほどです。「ブルックナー休止」ならぬ「ブロムシュテット休止」の間合の妙、とでもいえましょうか。

最初は、淡泊かなあと感じてしまった自分の脳内は、フィナーレの頃には、やっぱりこの巨匠はすごい!という興奮に完全に変わっていました。


次は、 9月27日NHKホール、Aプロの初日の方に行ってきました。
モーツァルト交響曲41番「ジュピター」&チャイコフスキー交響曲6番「悲愴」。

前回のチャイコフスキー5番同様、悲愴も立ち上がりはこんな淡々と感じられて、この先大丈夫かな?と思ってしまいましたが、徐々に馴染んでくると、むしろブロムシュテット巨匠のタクトだからこそ、見えてくるものが色々とありました。たとえば、第1楽章の第二主題、過度に情緒に溺れることのないところにはじめて、聴こえてくる郷愁というもの。また、再現部第一主題におけるきわめて厳しい表情。爆演型の解釈では醸し出すのはむしろ困難でしょう。

第3楽章とフィナーレの対比、人生ゲームの勝利と敗北のような作り物のドラマ感ではなく、もっと普遍的な感情、情熱感や高揚感と、深い諦感が表現されていると思いました。そしてラストへ向けた奔流と、最後にたちこめた美しい沈黙。とても心に残るものがありました。

前半のジュピターは個人的に淡々感が強かったですが、流れるようなうまさはさすがでした。


早くも来年の巨匠の動向が気になってしまいますね。来年秋もN響秋の定期プログラム登場が決まっているようです。あと、年末のベートーヴェン第九もぜひ!