Ricochet

音楽ものレビュー、雑談用のブログです。2019/2/24開始。

マイク・オールドフィールドの“Man on the Rocks”

久々に全面ヴォーカルをフューチャーしたマイクの新作は、近年のアルバムでは最も意欲的なものとなった。

どうも長い間、この人は、あの「チューブラー・ベルズ」の巨大影響下に過度にハマり過ぎていた印象があったが、今回は違う。パワフルな質感としては、旧ヴァージンでのラスト作「ヘヴンズ・オープン」にやや近いが、あの作品は過去に訣別を告げるアングリーさが滲み出ていた。しかし、奇しくも久方ぶりにヴァージンのロゴが入った今作は、より肯定的で発展的なエネルギーに満ちている。これは80年代のヴォーカル曲が好きだった人達にはたまられないだろう。

特にオープニングの「セイリング」は、「ムーンライト・シャドウ」や「フライング・スタート」のような、マイクの新スタンダードとでもいうような、良い意味でのキャッチーな魅力に満ちている。思わず一緒に「セ~イ~リ~ン~グ♪」と口ずさんでしまうほどに。

精神の深奥に分け入るような長尺曲と、洗練を極めたヴォーカルナンバーの間を平然と往来できる彼のキャパシティは、常識が通用しないほどに広大だ。彼の創作意欲がいつになく燃えていることを思えば、今後は新境地の大作に取り組むことも期待できるのではないか。