Ricochet

音楽ものレビュー、雑談用のブログです。2019/2/24開始。

ゲルギエフ指揮PMFオーケストラ・ショスタコーヴィッチ交響曲第4番ほか

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ロシアを代表する指揮者の一人、ワレリー・ゲルギエフと、PMFオーケストラによるショスタコーヴィッチの大曲・交響曲4番をメインとするプログラム。PMFは、オーディションによって選ばれた前途有望な若手演奏家を、アカデミー生として募って育成する理念を持ち、バーンスタインが立ち上げた音楽祭のオーケストラ。よく夏の時期は、今回と同じサントリーホールで世界的指揮者を招聘し公演を行っている。

ゲルギエフは何年か前にも、ショスタコーヴィッチの10番をPMFと演奏しているが、この時は残念ながら行けなかった。

近年多忙なゲルギエフは、相当な数の仕事を受けまくっているようで、充分なリハーサルが出来ていないのではないか、という評判をよく聞く。最近も、ワーグナーゆかりのバイロイト音楽祭での出演で、同様の批判があった模様。

なので、大好きなショスタコの4番ではあるが、自分もそれなりに忙しいし、行こうかどうか迷ったことは迷った。やっつけ仕事になりやしないか?今回も、リハーサルの途中までは、代わりの指揮者を立てて(クリスチャン・ナップ)、最後にやっと来日、自らリハを行ったらしい。しかし、東条碩夫さんのブログの記事を見て(http://concertdiary.blog118.fc2.com/blog-entry-3357.html?)代指揮者のリハの段階でもかなりの水準に仕上がっているらしいこと、ゲルギエフ自らのゲネプロでは、かなり濃密な指示を出していたらしいと知り、やはり行こうか!となった。

ショスタコーヴィッチの交響曲4番は、1935-1936年頃の作品とされるが、スターリンによる芸術家の粛清がはじまっており、前衛的で尖った本作の発表が危険だったという説もある。実際本作の初演は、年月を経てじつに1961年である。だが様々な政治的状況や大戦などの時勢を経て作風が変化する前の、アバンギャルドな彼の感性が全面的に発揮された大傑作であると思う。


さてこのコンサートは、まずドビッシー「牧神の午後への前奏曲」からはじまった。オーケストラの音色が非常に暖かみのある豊かな音だった。続くイベールのフルート協奏曲ははじめて聴く曲だったが、これも鮮やかな印象派的色彩に富む演奏だった。このPMFは、いかに有能な若手演奏家が集められたとはいえ、言うなれば急造のオケなのだが、演奏からはそんな要素は微塵も感じられないし、ゲルギエフの指導が短時間だったことも、そうと聞かなければ全くわからない。これはこの日は、メインのショスタコも含めて充実した時間になるだろうと予想した。


休憩後メインプログラムがはじまる前にアナウンスがあり、上皇上皇后ご夫妻がご臨席された。


果たしてメインのショスタコ4番、非常に密度の高く緊張度の高いものであった。緩急の起伏の激しい曲だが、激しい場面だけでなくそうでない場面も緊張の糸が切れない。巨大なエネルギーが常にうごめいている感じで、そのエネルギーはここぞというクライマックスで爆発的になる。例えば、第一楽章の頂点で演奏される劇的なフガートなど、息もつかせないほど張りつめている。
それでいて、「牧神の午後」で感じられたオーケストラの暖かみはちゃんと継続していて、緊張感の中にも、旋律的な部分は非常に豊かである。そして演奏時間の約1時間全編を通して、チェレスタの音とともに消え入る謎めいたラストまで、異様な緊迫感は保たれ、長い沈黙の後、会場は大喝采となった。


会場で、ゲルギエフについて書かれた著作「希望を振る指揮者 ゲルギエフと波乱のロシア」という本が販売されていたので手に取っていたら、側に著者の小林和男さんがいらっしゃり、サインをいただいて購入してきた。「面白いよ!」と小林さん自らおっしゃられていたので、期待して拝読したい。