Ricochet

音楽ものレビュー、雑談用のブログです。2019/2/24開始。

ダニエル・ハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラ ブルックナー交響曲第4番ほか すみだ祈念音楽祭3/13

2011年3月11日に思いを馳せる、すみだ平和祈念音楽祭2019、ダニエル・ハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラのプログラム。エルガーのニムロッド第9変奏曲、シューベルト交響曲3番、ブルックナー交響曲4番、トリフォニーホール。

 オープニングのニムロッド、最初の数秒でピンと張りつめた空気が立ち込めた。名演となる場合、もうイントロからただならぬ予感があることが多い。数分の短い演奏だが、ラストの長い余韻を含め、非常に感動的なものであった。また、今夜のこの後の演奏が、ただならぬことになるであろう予感を抱かせた。
ハーディングは、8年前の3・11の時に来日中であり、ここトリフォニーホールで演奏会の直前だったので、実体験としてあの大震災を日本で体験している。この一夜に込められた、ハーディングの気迫を充分に感じられた。

シューベルトの3番も、自然な滔々とした流れと力強さが両立したいい演奏で、ハーディングとマーラー・チェンバー・オケのコンビネーションが抜群だった。意思の疎通が充分に取れているという感じだ。というか、このコンビネーションを実現するため、いったいどれだけのリハをこなしているのか、とさえ思わされた。

 これで、メインのブル4には大きな期待が持てた。ニムロッドの余韻を引き継ぐかのような、いままで聴いてきた同曲のイメージとは、印象をかなり異にする第一楽章、敬虔な、深い祈りに満ちた演奏である。第二楽章も同様に敬虔で、哀しみが伝わって来る。なおかつ、要所要所でピンと張りつめた緊張感がすごい。3楽章、狩りのスケルツォでも、その敬虔さは引き継がれるが、哀しみを乗り越えていこうとする強い意思を示すかのように、クライマックスではダイナミックな起伏を築いていき、そして感動のフィナーレへと繋げた。

  
ハーディングの実演は久しぶりだが、本当にスケールの大きな指揮者になったものだ。8年前の3・11の公演大混乱の後、同年6月にチャリティーコンサートで再来日、新日本フィルマーラーの5番を振ったことがあった。自分もその公演には行ったが、ハーディングも日本が大変な中、相当な意気込みで来日したと思う。

しかし、マーラーの演奏自体はやや硬いもので、意気込みが空回りしていた部分があったと思った。前半から後半に移って力みが取れ、フィナーレあたりは良かったが、やや不完全燃焼、という感じはしたかな。

しかし今回の公演は、不安な要素を全く感じさせない堂々たるもの。ブルックナーは、かなりの経験を積んで高齢にならないと指揮が難しいといわれることがあるが、40代前半という若さながら、高齢のブルックナー巨匠たちの指揮に全く見劣りしなかった。

 
ホールを後にして帰途についても、あの演奏の敬虔な余韻はずっと身体に残っていた。こんなことは滅多にあるものではない。このコンビで、ブルックナーの他のシンフォニーにも取り組んで戴きたいものである。

 

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